CREATIVE / DESIGN / THINKING
CREATIVE 002
誰に伝えるかで、作品の方向は変わる
ターゲットは、なぜ必要なのか

作品を作ろうとするとき、テーマやコンセプトを決めても、どのように表現すればよいのか迷うことがあります。その原因の一つが、作品を誰に届けるのかが曖昧なことです。
同じテーマでも、子どもに伝えるのか、仕事で忙しい大人に伝えるのかによって、選ぶ言葉や写真、色、構成は変わります。今回は、作品を届けたい相手、つまりターゲットについて考えてみましょう。
同じテーマでも 相手によって作品は変わる
たとえば、「身近な自然の面白さ」をテーマに短い動画を作るとします。小学生に見てもらうなら、昆虫や落ち葉を大きく映し、短くわかりやすい言葉を添える方法が考えられます。
一方、毎日の仕事に追われている大人に見てもらうなら、通勤途中の木漏れ日や道端の草花を静かに映し、少ない言葉で余韻を残す方が合うかもしれません。
扱っているテーマは同じです。それでも、届けたい相手が変われば、取り上げる場面や言葉、音、作品の長さまで変わります。相手を考えることは、作品の方向を決める作業でもあるのです。
図1 同じテーマでも、相手によって表現は変わる
共通するテーマ身近な自然の面白さ
小学生に届けるなら
- 場面
- 昆虫や落ち葉を、大きく見せる
- 言葉
- 短く、わかりやすく説明する
- テンポ
- 発見を次々に見せる
忙しい大人に届けるなら
- 場面
- 通勤路の木漏れ日や草花を見せる
- 言葉
- 言葉を絞り、余韻を残す
- テンポ
- 一つの場面をゆっくり見せる
相手が変わると、何をどう見せるかも変わる。
ターゲットとは 作品を届けたい相手
ターゲットとは、作品をとくに届けたい相手のことです。商品やサービスを売るときによく使われる言葉ですが、写真、動画、Webサイト、文章などの作品づくりにも利用できます。
ただし、年齢や性別だけで決める必要はありません。むしろ、「何に関心があるのか」「今どのような状態なのか」「どのような悩みを持っているのか」を考える方が、作品づくりでの表現を選ぶ基準になります。
たとえば、「30代の会社員」だけでは、その人が何を求めているのかはわかりません。「忙しく、身近な風景に目を向ける余裕を失っている人」と考えると、作品で何を見せればよいのかが少しずつ見えてきます。
ターゲットとペルソナは どう違う
ターゲットは、共通する関心や状態を持つ人たちを示します。これに対してペルソナは、その人たちを代表する一人の人物像を、さらに具体的に設定したものです。
ペルソナを作るときは、本来、実際の利用者や調査結果をもとに、仕事、生活、関心、悩み、行動などを整理します。といっても、名前や年齢を想像だけで細かく設定すればよいわけではありません。根拠のない設定を増やすと、かえって実際の相手から離れてしまうことがあります。
今回は作品づくりの第一歩として、共通する状態や関心を持つ人たちを考えるところまでにします。ペルソナを設定しなかった場合と設定した場合で表現がどう変わるのかは、今後の発展記事で詳しく取り上げます。
みんなに伝えたい では決めにくくなる
できるだけ多くの人に作品を見てもらいたいと思うのは自然なことです。しかし、「みんなに伝えたい」という考えだけでは、表現を選ぶときの判断基準が定まりません。
説明をどこまで入れるのか、明るい色と落ち着いた色のどちらを使うのか、テンポを速くするのか、ゆっくり見せるのか。相手が曖昧なままでは、どの選択にも理由を持たせにくくなります。
ターゲットを決めることは、それ以外の人を排除することではありません。まず中心となる相手を決め、その人に届くように表現を整えるということです。対象を絞った作品が、結果として別の人にも伝わることは十分にあります。
届けたい相手を考える 3つの質問
ターゲットを考えるときは、次の3つの質問から始めます。
1.どのような人に届けたいですか?
2.その人たちは、今どのような状態ですか?
3.作品を見たあと、どうなってほしいですか?
ここで大切なのは、細かなプロフィールを作ることではありません。作品を届けたい相手の状態と、作品によって生まれてほしい変化を考えることです。
このコンセプトを 誰に届ける
第1回では、テーマとコンセプトを考え、次の一文にまとめました。
いつもの道にも、小さな発見がある
このコンセプトを、先ほどの3つの質問で考えてみます。
1.どのような人に届けたいですか?
毎日の仕事や家事に追われ、いつもの風景を見過ごしている人。
2.その人たちは、今どのような状態ですか?
目的地へ急ぐことが多く、道端の草花や光の変化に気づく余裕がない。
3.作品を見たあと、どうなってほしいですか?
次に外を歩くとき、少しだけ足を止め、身近な風景を眺めてみようと思ってほしい。
ここまで整理すると、この作品は単に散歩道を紹介するものではなくなります。忙しい日常の中で見落としているものに、もう一度目を向けてもらう作品だとわかります。
相手が決まると 表現を選びやすくなる
届けたい相手が見えてくると、作品に必要な表現を選びやすくなります。今回の例なら、次のように考えられます。
図2 届けたい相手から、表現を選ぶ
第1回から引き継ぐコンセプトいつもの道にも、小さな発見がある
誰に
忙しく、いつもの風景を見過ごしている人
見たあと
次に歩くとき、少し足を止めてみようと思う
だから、何を選ぶ?
相手が自分の日常を重ねられる見せ方
表現の選択例
- 場面|身近な道
- 言葉|短く
- 音|足音や風の音
- 長さ|短くまとめる
- 場面:観光地ではなく、通勤や買い物で通る身近な道を選ぶ。
- 言葉:詳しく説明しすぎず、見る人が自分の日常を重ねられる短い言葉にする。
- 色:強い色で目を引くより、朝や夕方のやわらかな光を生かす。
- 音:にぎやかな音楽ではなく、足音や風の音を中心にする。
- 長さ:忙しい人が見やすいように、短くまとめる。
- 公開場所:スマートフォンで見られるWebページやSNSを選ぶ。
これらは唯一の正解ではありません。重要なのは、「なぜこの表現を選ぶのか」を、届けたい相手と結び付けて説明できることです。
ミニワーク 作品を届けたい相手を考える
これから作りたい作品、または制作中の作品を一つ選び、次の文章を埋めてみましょう。
1.あなたがこの作品を届けたいのは、どのような人ですか?
2.その人たちは、今どのような状態ですか?
3.作品を見たあと、どのような気持ちや行動の変化を持ち帰ってほしいですか?
書けたら、作品に使おうとしている場面、言葉、色、音、長さを見直します。それぞれが、届けたい相手に合っているかを確認してください。合っていない要素があれば、削る、変える、別のものを選ぶという判断ができます。
相手を決めることは 伝え方を決めること
ターゲットを考える目的は、見る人を狭く限定することではありません。作品を誰に届けたいのかを明らかにし、その人に届く表現を選ぶためです。
相手が決まると、何を見せるのか、どのような言葉を使うのか、どれくらいの長さにするのかを判断しやすくなります。迷ったときに立ち戻れる基準ができるのです。
ターゲットは表現を縛るものではなく、数多くある表現から必要なものを選ぶための基準なのです。
次回は、頭に浮かんだ思いつきを集め、選び、作品として形にしていく方法を考えます。 第3回「思いつきを、作品のアイデアに変える方法」を読む →
