CREATIVE / DESIGN / THINKING
CREATIVE 003
思いつきを、作品のアイデアに変える方法
「これ、ちょっと気になる」
作品づくりは、そんな小さな思いつきから始まることがあります。
ただし、思いついただけでは、まだ作品にはなりません。なぜ気になったのかを考え、テーマやコンセプトを見つけ、具体的な形にしていくことで、思いつきが作品のアイデアへ変わっていきます。
今回は、僕が45年ほど使い続けている一本の万年筆を例に、その流れを紹介します。

思いつきは、作品の入口
この万年筆は、編集の仕事を始めた頃に買ったものです。
長く使ってきたため、今では首軸にヒビが入り、そこからインクがにじみ出ます。交換用の部品がなく、簡単には修理できませんが、それでも今も使っています。
あるとき、
「どうして、壊れかけても使い続けているのだろう」
と思いました。
これが、今回の思いつきです。
この段階では、まだ作品のアイデアとは言えません。ただ「気になった」という状態です。
でも、こうした小さな気づきが、作品づくりの入口になります。
なぜ気になったのかを考える
古いから気になったのでしょうか。壊れているからでしょうか。
それだけではありません。
この万年筆は、編集の仕事を始めた頃から、ずっと身近にありました。
仕事で文章を書いたり、考えをメモしたり。今でも、ときどき朝のモーニングページを書くときに使っています。
そう考えると、単なる古い筆記具ではなく、
長い仕事の時間や、日々の時間を一緒に過ごしてきた道具
なのだと気づきます。
ここで、万年筆に対する見方が少し変わりました。
「古くなった道具」から、「自分と一緒に時間を重ねてきた道具」へ。
このように、なぜ気になったのかを考えることは、自分が何に心を動かされたのかを知ることにもつながります。

気になった理由から、テーマを見つける
次に、今回の思いつきから作品のテーマを考えます。
この万年筆から連想できるものには、「時間」「仕事」「記憶」「愛着」「道具と人との関係」などがあります。
どれも作品のテーマになりそうですが、今回は、
「積み重なった時間」
をテーマにしました。
テーマは、作品全体で何を扱うのかを示す、大きな題材です。
最初の思いつきは「壊れかけても使っている万年筆」でしたが、その理由を考えることで、「時間」というテーマが見えてきました。
テーマを、コンセプトに変える
テーマが決まったら、次は、
「そのテーマを、どのように見せたいか」
を考えます。
今回のコンセプトは、
45年間使い続けてきた万年筆を、仕事と日々の時間が刻まれた道具として見せる。
としました。
ここまで決めると、作品に必要なものが少しずつ具体的になります。
万年筆をきれいに見せるだけでは、今回のコンセプトには合いません。
使い込まれたペン先や、首軸のヒビ。そこからにじみ出るインク。
そして、何よりも大切なのは、今もこの万年筆で文字を書いていることです。
傷んだ部分だけを見せるのではなく、長年使い続けてきたことと、今も使っていることの両方を伝える。
これを、今回の作品づくりの方向としました。
頭の中のイメージを、撮影できる形にする
テーマとコンセプトが決まったので、次は具体的な制作内容を考えます。
今回は、万年筆を題材にした短い映像作品を作ることにしました。
最初に考えた撮影の流れは、次のとおりです。
| 順番 | 撮影する内容 |
|---|---|
| 1 | 机の上に置かれた万年筆の全体 |
| 2 | 万年筆を手に取る |
| 3 | キャップを外す |
| 4 | ペン先のアップ |
| 5 | 首軸のヒビと、そこからにじみ出るインク |
| 6 | 紙に文字を書く |
| 7 | 書き終えた紙と万年筆 |

このように、作品で見せたい内容を、実際に撮影できる場面へ分けていきます。
ここで大切なのは、単に撮影するものを並べるのではなく、コンセプトに合った場面を選ぶことです。
今回なら、万年筆の細部を見せたあと、実際に文字を書く場面へつなぐことで、「今も使い続けている」ということを映像で表現できます。
最初の「この万年筆が気になる」という思いつきが、具体的な撮影内容へ変わってきました。
実際に撮影して、編集する
撮影では、机の上に置いた万年筆を手に取り、キャップを外し、ペン先や首軸付近を見せてから、実際に紙に文字を書く場面を収録しました。
ペン先と首軸は近い位置にあるため、アングルを変えて撮影しています。

ただし、首軸のヒビは、はっきり割れているような状態ではありません。光の当て方も難しく、映像では十分に確認できませんでした。
そこで、ヒビを無理に強調するのではなく、万年筆の細部を見せたあと、実際に文字を書く場面へつなぐ構成にしました。
撮影した素材をPremiereに読み込み、必要な部分を選んで並べ、カットの長さを調整します。
最初は少し長めの動画でしたが、実際に再生しながら、手に取る動作、キャップを外す瞬間、文字を書く時間、最後の余韻などを確認し、約34秒の映像にまとめました。

また、完成した動画を単独で見ても、万年筆と長い時間との関係が少し伝わるよう、冒頭に短い言葉を添えています。
「仕事と日々を、書いてきた。」
動画の中ですべてを説明するのではなく、この言葉を入口にして、万年筆を使う様子を淡々と見せる構成にしました。

完成した作品を見てみよう
こうして、一本の万年筆を題材にした短い映像作品が完成しました。
万年筆を手に取り、キャップを外し、文字を書く。そして、書き終えたあとに万年筆を置く。
特別な動作はありません。
でも、今回はその何気ない動作を通して、45年ほど使い続けてきた道具と、今も続いている日々の時間を表現しようと考えました。
最初は、
「どうして、この万年筆を使い続けているのだろう」
という小さな疑問でした。
その疑問からテーマとコンセプトを考え、撮影する場面を決め、実際に映像を作ることで、ひとつの作品になりました。
思いつきを、作品のアイデアに変えるには
今回の制作の流れを振り返ってみましょう。

このように整理すると、思いつきから作品までの流れが見えてきます。
最初から完成したアイデアが浮かばなくても構いません。
身近なものの中で「なぜか気になる」と感じたものがあったら、まずは、その理由を少し考えてみてください。
そこからテーマやコンセプトを見つけ、写真や動画、イラストなど、自分が表現しやすい方法で小さく形にしてみましょう。
実際に作ってみることで、頭の中で考えていたときにはわからなかったことが見えてくるはずです。
今日のポイント
思いつきは、作品づくりの入口です。
なぜ気になったのかを考え、テーマとコンセプトを決め、撮影や編集などの具体的な作業へ置き換えていく。
その流れをたどることで、思いつきは作品のアイデアになり、少しずつ具体的な形になっていきます。
大切なのは、最初から完成したアイデアを探すことではなく、身近な「ちょっと気になる」という感覚を拾ってみることです。
